2012年5月8日 (火) 朝の部10:30、 夜の部19:00
ピラミッドの建設と関係する考古学遺物には、大まかに分けると三つの種類があります。建造物を造る前に埋められた供物や、建築材として構造物(壁や床)に含まれる土器片や石製品、そして、建造物を造った後に床上に設置される土器や土偶などです。
第14回講演では、この三つめの建造物を造った後に設置されたと考えられる土器についてお話します。
はじめに、ラ・ホヤ遺跡の特徴に触れ、ピラミッド建設に伴う多くの資料が見つかった東建造物と呼ばれる建物について、ご紹介したいと思います。とりわけ、ピラミッド建設後に配置される形で検出された頂部出土の考古学資料と大量の供物と命名された一括遺物についてお話したいと思います。そして最後に、これら二種類の考古学資料をもとに、儀礼が行なわれていた可能性について述べたいと思います。
1ラ・ホヤ遺跡ラ・ホヤ遺跡は、ベラクルス州中部地方南地域に位置します(図1)。UNAM人類学研究所のアニック・ダニールズ先生が1980年代から続けてきた、一連のコタシュトラ川流域における遺跡の踏査・測量・確認のための発掘といった調査によって(注1)、この地域における古典期の主要な遺跡の一つであることが確認されています。
ピラミッドは土で造られているので、レンガ造りのための材料としてここから土が取られており、1937年当時確認された遺跡を構成する18基もの建造物群は、もはや残り10%に満たないものとなっていました。そこで、今残っている建造物が全て消滅してしまう前に、出土資料、建造物の構造やその建設時期などの確認を行う目的で、2004年よりこの遺跡の緊急発掘調査が開始されました。
その結果、建造物の構造などが理解され、遺跡の重要性が認められるようになりました。そして2008年からは遺跡を保存・修復し保護するという方針のもとで、現在も調査が続けられています。
図1 ベラクルス州中部地方南地域におけるラ・ホヤ遺跡の位置
(Gobierno del Estado de Veracruz 2000 より作図)
2東建造物現存する三つの建造物のうち、もっとも破壊がすすんでいるのが東建造物と呼ばれる土のマウンドでした。そのため、緊急性がもっとも高いこの建造物から調査が開始されました(写真1)。
写真1 奥に見える東建造物の残っている部分と測量の様子
3東建造物から検出された二つの一括資料(A頂部出土資料、B大量の供物)A 頂部出土資料
東建造物の上部から発掘調査を開始した際に、一定の区域において土器資料が25点ほど建造物床面より上部で見つけられました。これらの土器資料は特定の区域に分布しており、まとめて頂部出土資料として登録されました。これらの土器資料は、皿・椀・壷などであり、日常生活において使用される土器からなっていました。
このうち興味深いものは、同じ形をしている二つの土器資料が対となって四点ほど、まとまって見つかったことです。これらの土器の組み合わせから、どういったことが読み取れるのでしょうか。
他地域で出土した類似する資料を比較すると、資料の出方と建物との関係から、二通りの解釈があると思います。まず一つは、こうした対の資料を東の建造物を建設した後に意図的に配置したとする建設後の儀礼に関する資料である可能性です。そして、もう一つはその場に廃棄されたものだとする考え方です。本発表ではそれぞれの可能性について少しお話ししたいと思います。
B 大量の供物
調査がすすむにつれて同じ東建造物のさらに下層から、建造物の床面上に、今度は別の土器資料が大量に見つかりました。頂部出土の資料とは内容が大きく異なり、ここでは、椀・皿・壷の他に大量の小皿と、総計すると800点以上の土偶が一括で見つけられました。さらにこの下の層からは、複数の埋葬が見つけられました。
同じ建造物の頂部から出土した資料と比較すると、資料の内容においてとりわけ小皿や土偶が大量に出土する点、またこれらが特定の区域に層状に重なって見つかっていることなどの違いがあります。この違いから、どういったことが考えられるのでしょうか。
特定の区域に、2,000点以上もの資料が一括して出土する様子が確認されており、民俗学の事例などから類推すると、その場において何らかの儀礼行為を集団で行った可能性があるようです。
最後に、これら二つの一括して見つかった土器資料の様子から、建設後のお供えの特徴と資料の分析より類推される儀礼の様子について、少しお話ししてみたいと思います。
(注1) メソアメリカ古代文化の研究では、一定の地域における遺跡の組織的な踏査・マウンドおよび地形測量・遺物の表面採集などを行い、マウンドの規模や配置を比較し、遺物の分布などを研究する方法があり、これは一般にセトルメント・パターン研究法とよばれています。詳しくは
【2007年度連続講演会】第4回講演 予告「土器を拾って歩こう。〜発掘調査とは別の考古学調査方法から〜をご覧ください。
Gobierno del Estado de Veracruz
2000
Atlas Geográficas del Estado de Veracruz/México, Secretaría de Comunicaciones, Gobierno del Estado de Veracruz, Xalapa, (1992 1a ed.)
黒崎 充(考古学、メキシコ国立自治大学 哲文学部 博士課程)